2023年の夏、山形県で、ひとりの中学1年生の女の子が熱中症で亡くなりました。
部活動のあと、自転車で帰宅する途中。強い日差しの下、わずかな時間のなかで、体調は急変していきました。
帽子をかぶり、水筒も持っていた。運動時間も長くはなかった。
──それでも、彼女は帰ってこなかったのです。
救急搬送後、容体は急速に悪化しました。
「熱中症といっても、点滴を打てば回復するものだと思っていた」と、母親は語ります。
しかし現実には、多臓器不全を引き起こし、内臓から出血していたそうです。
それが「熱中症」というものだと、そのとき初めて知ったといいます。
暑さが命を奪うまでに至るプロセスは、想像以上に静かで、そして急激でした。
「伝えなければ、誰も知らないままになる」
事故直後、ご両親は、取材にも応じず、名前の公表も避けていました。
その姿勢は当然であり、深い悲しみのなか、そっと時間を止めていたかったのだと思います。
けれども、数ヶ月が経った頃。
「このままでは、娘の死が“ただの不幸な出来事”で終わってしまう」
「伝えなければ、誰も気づかない」
──そう思ったご両親は、ひとつの決断をします。
娘の経験を、これからの命につなげるために、熱中症対策リーフレットを作ることを。
📎 リーフレット画像(Yahoo!ニュース内)
https://news.yahoo.co.jp/articles/2020ee41402839531627c5f1bd90fb290cde470b/images/000
そのリーフレットは、地元の教育委員会と協力して作られました。
A3サイズの二つ折り、両面カラー。
内容は、教職員向けのガイドをベースにしながらも、小中学生でも理解できるよう、やさしく書き換えられています。
娘の友人たちが描いたイラスト、後輩たちの思い出の言葉、そして母親の手書きのメッセージ──。
それは単なる“注意喚起のチラシ”ではなく、命の教訓を込めた手紙のようなものでした。
「本当にすごい子だった」──これからだったのに
亡くなった少女は、自然が大好きで、地元の「緑の少年団」に所属していました。
木々や土地の文化を学び、全国育樹祭では最高賞も受賞。
将来は、環境や地域に関わる仕事に就きたいと夢を描いていたそうです。
そんな彼女が遺していったものは、夢の途中で消えた命だけではありません。
“暑さ”に対する社会の油断を、そして“日常”の中にひそむ危機を、静かに問いかけています。
「私の子に限って」──それは、もう通じない時代です
熱中症は、決して「弱い子がなるもの」でも「長時間の運動の結果」でもありません。
体調が良くても、気をつけていても、たった30分で命を落とすことがある。
それが今、親として知っておくべき現実です。
- 帽子をかぶっていても、リスクはある
- 水筒を持っていても、飲むタイミングを逃せば意味がない
- 気温だけでなく、「暑さに慣れているかどうか」が重要
子どもたちは夢中になりすぎる。
大人は「自分の頃は平気だった」と思い込む。
このズレこそが、悲劇を繰り返す要因なのかもしれません。
「この記事を読んだあなたへ」
日本の夏は、命を守る季節でもあります。
湿度が高く、体温がこもりやすい環境の中で、熱中症は一瞬の油断で命を奪います。
だからこそ、誰かが亡くなってから動くのではなく、
**「今、この瞬間に動くこと」**が大切です。
- 子どもに「のどが渇く前に飲もうね」と伝える
- 大人も「暑さに鈍感にならない」姿勢を見せる
- 地域・学校単位でもリーフレットのような啓発をシェアしていく
あの少女の命は戻りません。
でも、その命がつないだ行動は、きっとこれから誰かの命を守る力になるはずです。
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